肝臓の疾患について
肝細胞癌
1.症状
肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、たとえ肝臓癌があっても多くの場合は無症状です。しかし、肝細胞癌は慢性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)の患者さんに多く発生することが知られており、これらの患者さん(ハイリスク群)に対する定期的な検査(超音波検査や血液検査など)は、肝臓癌の早期発見に有用とされています。
2.治療
肝細胞癌の治療は、慢性肝炎や肝硬変を伴っていることが多いため、癌の大きさ、個数だけでなく、肝臓の予備能を考慮して治療方針を決定する必要があります。われわれは基本的に2009年に改訂出版された「科学的根拠にもとづく肝癌治療ガイドライン」に沿った治療計画を実施しておりますが、患者さん一人一人に最適と考えられる治療法(肝切除術、局所療法、肝動脈塞栓化学療法など)を選択するようにしております。
- 肝切除術
肝切除に際しては十分に安全性を重視しながら過不足のない切除を行っており、手術による入院期間は2~4週間を予定しています。肝切除に関してはクリニカルパスを導入し、安定した治療を提供するよう努力しております。特に、肝細胞癌は残った肝臓に再発することが多いのですが、再発の大きさ、個数、残った肝臓の予備能を考慮し、再切除も積極的に行い根治を目指しております。 - 局所療法および肝動脈塞栓化学療法(TACE)
局所療法(ラジオ波焼灼療法、エタノール注入療法)については当院の肝臓内科と緊密に連携をとりながら施行しております。また、切除不能で局所療法も困難な肝細胞癌に対しては、血管内治療担当放射線科医と協力して肝動脈塞栓化学療法(TACE)を施行しております。なお、TACEはクリニカルパスの導入により、入院期間は4-6日程度で行っております。 - 放射線療法
肝細胞癌に対する放射線治療は一般的には効果が少ないとされておりますが、骨転移を認めた場合、除痛目的に放射線治療を行うことがあります。保険適応外ではありますが、千葉県にある放射線医学総合研究所にて重粒子線治療を受けることが可能な場合もあります。 - 化学療法、分子標的薬(ソラフェニブ)
切除不能、局所療法およびTACE不能肝細胞癌に対しては化学療法が適応となります。2009年5月より腫瘍細胞増殖抑制と血管新生阻害の2つのさようにより癌の成長を抑制する経口分子標的薬(ソラフェニブ:商品名ネクサバール)が保険適応となりました。従来の化学療法とは副作用の発現に違いがあり、特に肝機能が悪い場合には慎重な投与が必要とされています。しかし、副作用を予防する処置をとることで、この内服治療を現在まで切除不能な肝細胞癌や再発症例に対して、外来通院治療にて重篤な合併症なく使用しております。当院においてもソラフェニブを使用し腫瘍が縮小した症例を経験しております。 - その他
帝京大学医学部付属病院肝胆膵外科では一般診療に加えて、各種臨床試験(SURFtrial http://www/surftrial.jp/ , 重粒子線治療研究班)に参加しておりますので、興味をお持ちの方は担当医までご連絡ください。
肝細胞癌の治療法は多岐にわたるため、個々の症例に対して複数の診療科(肝臓内科、腫瘍内科、外科、放射線科、病理)の専門家によるキャンサーボードを毎月開催し、治療方針を決定しております。
転移性肝癌
転移性肝癌に関しては原発部位により治療法は変わりますが、結腸や直腸癌の肝転移に関しては腫瘍の個数に上限を定めず、肝機能を鑑みて切除可能であれば積極的に切除を行っております。手術に伴い大量肝切除となる場合や残存する肝臓の体積が十分でない場合には、手術前に切除側の門脈や肝動脈を塞栓し、残存肝を十分に確保することで手術の安全性向上に努めております。
術前・術後の化学療法も腫瘍内科や大腸外科グループと連携をとりながら積極的に行っております。